1.研究の背景および目的
下水は、外気温よりも夏季は冷たく、冬季は暖かいという特徴を持っており、大気より、熱回収に適した温度域である下水を熱源としてヒートポンプなどの機械が設定温度まで冷却・加温する動力を抑えることで、省エネや省CO2化が可能となります。この下水を熱源として生産された熱エネルギーのことを「下水熱」と呼びます(図1)。
下水熱のポテンシャルは年間20,000 TJに上ると言われていますが、ほとんどが未利用となっており、他の下水道資源と比べて低い利用割合となっています(図2)。
また、平成26年7月に策定された「新下水道ビジョン」では、再生水や下水汚泥、下水熱などの資源・エネルギーを活用し、地域の水・資源・エネルギーの供給拠点として持続可能な社会の実現に貢献することを目指しています。

図1 下水温度と外気温の関係

図2 下水道資源の年間ポテンシャル量と有効利用割合
2.目的
本研究では地方都市の主産業である農業の熱需要に着目し、下水熱の利用手段として植物栽培の環境構築に用いることで新たな下水熱の利用方法を提案し、下水熱のさらなる導入拡大を目指すことを目的としています。
3.実験方法
本実験は、下水熱回収設備、バイオガス発電機、容積600 m3の2棟のビニールハウス、気体分離膜設備、そして施設内のデータを監視・管理できる制御室で構成されています(図3)。下水熱の回収は日平均流入量22000 m3の塩素混和池内に20 kWの熱交換器を設置し、60 kWのヒートポンプにより冷温水を生産しました。ヒートポンプに要する電力は処理場内の消化槽で発生したバイオガスをガス分離設備で分離し、純度98%以上のCO2は植物に供給することで光合成の促進、メタンは75 kWのバイオガス発電機で発電することで電力供給を行いました。栽培植物は冷熱利用ではわさび、温熱利用では観賞用水草の栽培を行いました。
わさび栽培はヒートポンプで生産された冷水と施肥をした水道水を50 kWの熱交換器で熱交換をして、循環利用することで冷涼な水を大量に使用するわさびを通常の栽培と比べ1/500以下の水量で栽培を行いました(図4)。
観賞用水草栽培は、栽培水に再生水を用いることで栽培の促進を図り、ヒートポンプで生産された温水をファンコイルと熱交換させることで栽培環境の構築を行いました。

図3 本実験設備の外 観図

図4 本設備での循環式わさび栽培の概要

4.結果
これまで本実験設備において、冷熱利用では、わさび、バイカモ、イチゴなどの植物を、温熱利用では、バジル、観賞用水草、バナナをはじめとした植物を栽培してきました(図5)。どの植物も通常 の電力や灯油ストーブを用いた場合と同程度の品質、収穫量であることを確認しました。下水熱の活用により、安定的な栽培かつ、省エネ、脱炭素化などの環境にも配慮した植物栽培が可能になると考えられます。

図5 本実験設備で栽培された植物